●「鋳造技術と鋼」(鋳鋼)のポテンシャル

鋳鋼製品を生産する枚方製造所。先に見たように、そこでの研究開発の方向性は「新材料・新素材の開発」にある。鋼に添加する代表的成分は、ニッケル(Ni)・クロム(Cr)・モリブデン(Mo)・ニオビウム(Nb)・コバルト(Co)・タングステン(W)…など。鋳鋼製造部の吉竹晃氏(技術第一課長)、小谷正典氏(技術第一課)から、同製造所で生産される鋳鋼の種類、さらにこれまで開発された「新材料・新素材」の具体像を聞いた。
 鋳鋼の種類は「構造用鋼」「低合金鋼」「耐摩耗鋼」「耐食鋼」「耐熱鋼」に区分される。これらに、新材料・新素材として 「セラミックス複合材」(超耐熱複合材)「高合金バイメタル」「HIP 複合材」「粉末アルミ合金」「窒化ケイ素セラミックス」「チタン酸カリウム繊維・TXAX」などが加わる。
  製品としていくつか例を拳げるなら、たとえば建築物の超高層化・耐震設計に対応して開発された構造用鋳鋼管柱「Gコラム」。遠心力鋳造法により、梁が溶接される接合部の突起部分も一体鋳造したものだ(構造用鋼)。製鉄所の製鉄プロセスでは、実にさまざまな鋳鋼製品が活躍する。「連続鋳造機用ロール」「連続熱処理炉用ハースロール」「輻射式熱処理炉用ラジアントチューブ」「溶融亜鉛メッキ用シンクロール」(耐熱鋼)「電気亜鉛メッキ用コンダクターロール」(耐食鋼)「鋼片加熱炉用スキッドボタン」 (耐熱鋼・超耐熱複合材)…。製紙プラントでは「サクションロール」(耐食鋼)、化学プラントでも各種の耐熱鋼・耐食鋼が活躍する。さらに建設機械のインプルメント(耐摩耗鋼)、タンカーの船内管(低合金鋼)、原子力発電所の各種パイプ(耐熱鋼・耐食鋼)…数え上げれば切りがない。
 ひと言でいえば、それらは特殊鋼製品だ。鋼(はがね)自体が持つ優れた物性を、各種添加成分によって純化(高度化)させ、それを鋳造技術固有の力によって、ひとつの“カタチ”へと仕上げる。幅広い材質選択の可能性と鋳造技術とは不即不離の関係にあるのである。伝統的な置注ぎ鋳造法に遠心力鋳造法や各種新鋳造法・表面処理技術が加わることで、そのカタチの多様性・量産性・精度も実現する。さらに「新材料・新素材の開発」というコンセプトから独自に誕生した新プロセス技術も合流する。超急冷粉末冶金技術やHIP 技術、CIP 技術(注4)。鋳造技術はいわゆる“超特性”の実現へも走り始めているのである。

 

 


現場に固有の美を感じる瞬間がある


上/
加工プロセスを経て、鋳鋼製品はその精度をきわめていく─製紙用サクションロールの内外面同時加工
下/
新素材・新機能創出の舞台裏では、各種試験のために膨大な時間が費やされる─耐熱鋼用クリープ(熱強度)試験

 ● 新しい社会づくりの基盤技術として

 では、鋳造技術と鋳造品はこれからの産業と社会の進展の中でいかなる役割を担おうとしているのだろうか?
 冒頭の和氣氏の言葉を借りるなら、鋳造(品)とは「Foundry」、語源的にいうなら「基礎」であり「創造」だ。それは産業革命を通じて、鉄鋼業・機械産業(内燃機関生産)などに技術的・材料的「基礎」を提供し、また相互補完的に産業の「創造」を実現してきた。だが、その途上でのさまざまな新技術ジャンルの形成の中で、人々の目には鋳造技術の存在が薄く映ってきたのは、紛れもない事実だ。せいぜいが「機械構造材」としての「鋳物」という程度の印象をもってして…。もちろん、客観的に果たしている役割は別にして、である。
 しかしながら、今。広く産業社会の在り方を問い直す動きが急だ。たとえば生活環境の改善(公共領域での社会資本の充実)、地球環境問題への対策(リサイクル・省エネ・軽量化)。こうした課題の中で、鋳造技術は間違いなく基盤技術として重要な役割を演ずるだろうし、新しい社会づくりに、“華々しい”先端技術の群れとは別に、確かなる貢献を果たしていくだろう。

(注1)
「鍛造」は固体金属をプレスやハンマーで鍛えながら変形させ、目的の形状にする加工法。鍛えることにより、結晶粒を微細化し機械的性質を向上させることができる。「プレス加工」は全属板をプレスで力を加えて変形させ、目的の形状にする加工法。

(注2)
「粉末冶金」は金属の粉末を金型に入れてプレスで押し固めた後、熱を加えて焼結させる加工法。「ダイカスト」は精密な金型に溶融金属を高圧で注入し、急冷凝固させ、目的の形状にする加工法。「射出成型」は熱可塑性プラスチックの成形に用いられる方法で、粒状の素材を成型機の射出シリンダー内で加熱し液状として、スクリュー・プランジャーで型内に射出して目的の形状を得るもの。

(注3)
いずれも鉄(Fe)以外に、炭素(C)・シリコン(Si)・マンガン(Mn)・リン(P)・イオウ(S) を含む。

(注4)
「HIP」とは「熱間静水圧プレス:Hot lsostatic Pressing」。物体をアルゴンなどの不活性ガスで四方八方あらゆる方向から等方向的に加圧しながら高温に加熱・プレスし、成形する技術。一方「CIP」とは「冷間静水圧ブレス:Cold Isostatic Pressing」。セラミックスなどの粉末を水圧で押し固め成形する技術。深海底と同じ等方圧を人工的に地上に再現したもの。